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This blog is Written by 神月きのこ,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
個人創作サイト「Sacrilege」小説投稿サイト「小説家になろう」その他創作全般についての呟き。不定期更新。
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04/30 カイン
カイン・コーラス編です。
日本語おかしい部分見つけたけれど、敢えてそのままで。

昔の恥は恥として。
これ単体で読めますよ。




 あまりにも幼くて弱かった。


 そんな自分を打ちのめす雨、苦しみの雨。





 パシャン、と足元で水がはねた。
 少年が、同じ年頃の少年を背負って歩いている。
 同じような体格の人間を背負うのは容易じゃない。それも、意識が朦朧としているような人間を背負うのは。
 相手がしがみついてくれないのだから、何度も背中の上でずり落ちて、足を引きずる。

 その上に容赦なく降り注ぐ雨。
 せめて、と背中の少年に上着をかぶせるけれど、それももうぐっしょり濡れて用を足さない。

 走ることはできない。
 走ったら落としてしまう。

 それに、雨で冷え切った体は今にも力尽きてしまいそうで、ずるずると足を引きずるのもやっとだった。
「…すぐ、お医者様のとこ連れてくからね…すぐだよ。すぐに…」
 何度も囁くように繰り返すのは、背中の少年に対してか、自分を励ますためか。




 今よりもっと幼いころから、ずっとそばにいた。
 大切な友人、兄弟のように育って、かけがえのない相手。
 背中の上の少年は昔から体が弱かったけれど、彼の両親が死んでから一層酷くなった。
 遠くへ出かけることなどできない彼が、どうしてもと頼むから。
 事実を甘く見ていたのだろう。
 遠くに行って疲労が溜まれば具合だって悪くなる。
 しかも、そこに運悪く降ってきた雨。
 気ばかり急いて、先に進まないもどかしさ。
 涙で視界がぼやける中、何とか進んでいった。


 雨と涙で霞んでいて、気がつかなかった。
 すぐ目の前に、黒い人影。
「…どうしたの?」
 静かな声は、優しいのに険しかった。


 白い天井、白い壁。
 フローリングに立ち尽くしていると、言いようもない不安を感じる。
 この白い世界は、冷たく自分たちを跳ね除けてしまうかのように思える。
 少なくとも、救ってくれるようには思えない。
 そんなことを考えているとふいに頭を撫でられた。
 振り返るとそこにいたのは、先ほど自分たちを見つけてくれた少年。
 少年と言っても自分たちよりはいくらか年が上なのは間違いない。
「お友達は少し寝ていれば大丈夫だって」
 よかったね、と笑う表情は柔らかくて、少女のような可憐さを持ち合わせている。
「…ありがとうございます。助けてくれて…」
「どういたしまして」
 彼は安心させようとしてかずっと微笑んでいてくれたけれど、笑う気はしなかった。
 気分が重くて、笑うどころじゃなかった。
「それじゃあ、俺は用事があるから。後のことは先生に頼んどいたからね」
 もう一度頭を撫でると、そうして少年は去ってしまう。
 早速、エリオスの元へと向かう。
 診療所の奥へと入ると、寝台の上で身を起こしている灰色の髪の少年と、白衣を着た医師。
「ごめんね…」
 少年は謝った。
「ううん、僕が止めなきゃいけなかったんだ…ごめんね、ごめん…」
 少年の声を聞いたらどっと力が抜けて、寝台の横に座り込んでしまう。寝台の端には腕を着きながら。
 医者は何も喋らない。暫くはずっと、したいようにさせてくれた。


 安心すると、思い出す。
 先ほどの少年のこと。
 まだ子供の癖に随分と大人びていた。余裕がある、というのだろうか。

「あの…さっきの人…」
 訊ねると医者は頷いてみせる。
「お役人だよ。まだ、随分若いんだけれどね」
 名前を聞くことすら忘れていた。
「知らないの? 結構よく名前聞くよ」
 そう言ったのは、ベッドの上の少年。
 彼が知っているということは、確かにそこそこ話題になっている人物なのだろう。

 しかし、それよりも。
 役人ということは、当然のことながらしっかりと教育を受けた人間だろう。
 自分たちのような下層の人間とは違う。
 最低限のことしか学べない人間とは違う。
 交渉できるだろうか、自分の望みの為に。


 雨の中、唐突に現れた人。

 降りしきる雨に、溶け込んで。

 空間を切り取って絵にしたかのように違和感がなく、気付くことができなかった。

 幾千も降り注ぐ雨のしずく、その中の一粒であるかのように。
 



「お願いが、あります」




 無力な自分を打ちのめしたのは冷たい雨。


「僕に、勉強を教えてください」



 無力な自分を実感させたのは温かな雨。




 もっと強くなる。
 賢く、冷静に。








 大切な人を、この手で守ることができるように。
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