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This blog is Written by 神月きのこ,Template by ねんまく,Photo by JOURNEY WITHIN,Powered by 忍者ブログ.
個人創作サイト「Sacrilege」小説投稿サイト「小説家になろう」その他創作全般についての呟き。不定期更新。
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絵にしろ小説にしろゲームにしろ、創作好きのなりチャッター。
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お子様小説第二段。
どれにしようか迷いましたが、今日はシェス・カートライト編。
一番子供らしくない子供で。




 蒼い光の中、浮かび上がる小さな影。
 それは少しずつ、足を滑らすように移動していた
 引き摺る足と共に、それとは違う、硬質な何かが大地を引っかく音も響く。
 それは影が手にしていた、長い、彼の胸の辺りまでの長さのある剣だった。
 俯く影の表情は、月明かりしかない暗闇の中ではうかがい知ることはできなくて。
 ただ、ただ。
 暗い山道を、着実に下っていくのみだった。
 そして。
 唐突に、影が崩れ落ちる。
 ここは一体どの辺りなのか。
 それすらも確認できずに、力尽きて。
 そのまま、意識を手放した。
 剣だけは、しっかりと握り締めて。




 どれだけの時間が経ったのか。
 辺りが、やけに騒がしい。
 人の話し声がする。
 ざわざわと、騒音のようにしか聞こえないそれは、近くにいる人の数が多いことを表していた。
 そこで、気がつかないうちに町中までたどり着いたのだと、朧気な思考で理解する。
 だが、目を開けて辺りを確認することはできなかった。
 どんなに、起き上がろうと頭で考えても、体が動かない。
 瞼も、体も重くて、指一本動かせない有様で。

 ふいに、近付く足音が聞こえた。
 手が、顔の辺りに近付く気配が分かる。
「…っ」
 小さく呻き声を洩らせば、手は目の前から離れて。
 その代わり、肩に手をかけ、抱き起こされる。
 触れる手の感触に眉を寄せて、払いのけようとするものの、軽く身動ぎをするのが精一杯だった。
 抵抗の意思を示すべくもう一度動こうとするが、しっかりと抱えられてしまえばそれも叶わない。
 ゆっくりと開かれた瞳が映すことができたのは、自分を抱き上げている誰かの、黒い服だけだった。


 再び目を開けたときに見えたのは、見慣れぬ天上。
 あまり働かない頭で、のんびりと、今自分が寝台に寝かせられていることに気がつく。
 額に手を当ててぼんやりとしていると、唐突に思い出す、剣の存在。
「!!」
 慌てて、回りを手で探り、起き上がるが見当たらない。
 軽く眩暈がするものの、それにも構わずに部屋の中を見回す。
「剣でしたら、騎士団に差し押さえられましたよ」
 柔らかな声に警戒心露に振り向くと、黒いローブ姿の男が部屋の入り口に立っていた。
 首から長いクロスを下げているところを見ると、神官のようである。
 距離を開けながら強く睨みつけると、男は困ったように笑った。
「獣のような子ですね。…私は、貴方の敵ではありませんよ」
 両手を顔の辺りに上げてひらひらと振る。
 危害を加える気が無いことを、表面的にでも納得してもらう為に。
「…誰だ」
 低い、と言っても所詮子供の声。大人から見れば大分高い声で問いを発した。
「見て分かりません?」
「神官に見える…」
「それだけ分かれば、十分ですよ」
 と言われても、少年にはどういった経緯で今ここに、神官と2人でいるのか分からない。
 ますます警戒を強めたように、睨みつける少年に構わず、男は円卓の前まで進む。
「それでも不十分でしたら、…ジョイス、とでも名乗っておきましょうか」
 名乗っておきましょうって何なのか、と。そんなことにも気がつかない。
「…騎士団に捕まった、のに…なんで、俺はこんな所にいる?」
 幼い声に合わない、固い話し方。だけれど、口調はどこかたどたどしい。まるで、話すことになれていないかのように。
「それは――」
 ジョイスが答えようとしたとき、部屋の扉が開いた。
 入ってきたのは、白銀の鎧に身を固めた騎士と思しき男。
 鮮やかな緋色の髪を揺らした長身の男は、湯気のたつ食事を乗せたトレイを持っている。
「よぉ、チビ。やっと目ぇ覚めたか」
 にっ、と人懐こい笑み、大きな声に呆気に取られて、警戒することも忘れる。
「腹減っただろ、飯食え」
 テーブルの上にいそいそと置きながらも命令形。
「……いらない」
「いいから食・えv」
 爽やかな笑顔が余計に胡散臭くて。今度は口には出さず、拒絶の意思を表す。
 それを見て、神官のジョイスの方が少年の目の前に座る。

ガッ

「ガタガタ言わず、食べといた方が身のためですよー?」
 顔のすぐ横に突きつけられたものの正体が分かると、拗ねた表情で小さく頷いた。
 そうすると、ジョイスは満足したように壁に突き立てたナイフから手を離す。
「おい、壁に傷付けんなよお前」
「ああ、どうもすみません。後で治しといてください」
 この神官と騎士の力関係が明らかになった瞬間。
「大丈夫ですよー、ラドルフはとおっても家庭的なお兄さんですから」
 テーブルの前に座っても、まだ食事に手をつけようとしない少年に告げて。
 どうやら、騎士の名前はラドルフというらしい。
「……」
 別に、料理の味とかそんなことを気にしているわけではない。
 そう言おうと思って、止めた。
 どうしても、食べないわけにはいかない。それを理解してか、机に移動して席に着く。
 匙を取って、少しずつ口にした食事は、確かに美味しかった。
「食べながらでいいから、ちょーっといくつか質問に答えてくれな」
 少年の向かいに腰を下ろしたラドルフは、頬杖を着きながら軽い調子で言う。
 それに対して、いいとも嫌だとも言っていないうちから、早々と続ける。
「お前が持っていた剣。あれは…レイクの頭領の武器か?」
 剣の話題が出ると、大人しく食事をしていた少年の目が鋭く細められた。
「…それで? ついていたのは奴の血か」
 少年の反応を肯定と受け取り、ラドルフは続ける。
 町人が少年と剣を見つけたとき、両方とも血塗れだった。
「ラディ、食事時にする話題じゃ…」
「そうだ」
 注意しようとしたジョイスの声を遮って、少年は答える。匙は、食器の横に置いて。
「奴を殺して、奪った」
 きっぱりと、そして淡々と語る声に感情は含まれない。相変わらず、話し方はぎこちないが、それだけに、返答は簡潔である。
「いくら子供相手とはいえ、そう簡単に奴が武器を奪われるとも思わないが」
 呟くように言いながらも、ラドルフは一度席をたって部屋の戸を開いた。
 外へ出るのかと思いきや、そうではなくてただ、外においてあったらしい何かを手にとって、そしてまた部屋に戻ってきた。
「ほら」
 机の上に置かれたのは、いつの間にかなくなっていた剣。
 恐らくは、保護された時に騎士団に差し押さえられたのだろうけれど。
 それを、こんな軽々しく持ち出していていいのかと疑問に思いながらも、奪うように取って抱える。
 不信感を隠そうともせず、剣を抱えたままじっとラドルフを見つめる。
「それが、そんな大事か?」
 問われても答えない。
 大事なのは、これそのものじゃない。
 本当は武器なら何でもいいのだ。
「お前は、騎士団が保護した。孤児として施設に入れるか、里親を探すか…それは、この国の義務だ」
 ラドルフは淡々と語る。
 騎士としての仕事、世間体を考えた上での今後。
「しかも、賊とはいえ人を殺してるんだ。かなり風当たりは強いだろうさ」
 ジョイスはずっと何も言わない。
 今は国の仕事の話、神官が口を挟むことではないと理解してのうえでのことからか、それとも。
「お前に一つ、選ばせてやる」
 ラドルフの瞳が悪戯っぽく細められた。
「国の保護の元に入り…この教会で暮らすか」
 これが一つ目の選択肢、と指を立てる。
「体力が戻り次第、遠くへ消えるか」
 に、と笑う表情。
 呆気に取られてまじまじとラドルフの顔を見てから、同じく少年も口元に笑みを描く。
 その幼さとは結びつかない、皮肉たっぷりな笑顔。
「…不良騎士め…」


 今はその選択を言葉にはしない。

 今だけでなくこれからも。

 行動が、そのまま答えだ。
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